壬寅(みずのえとら)
2022年は壬寅の年。
十干と十二支の組み合わせたもの。
日本では十干の干と十二支の支を合わせ干支(えと)と呼ぶ。
十干とは、五行説の木・火・土・金・水の5つを陽と陰に細分化したもの。
甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸(こうおつへいていぼきこうしんじんき)
正式に呼ぶと
甲(きのえ)乙(きのと)
丙(ひのえ)丁(ひのと)
戊(つちのえ)己(つちのと)
庚(かのえ)辛(かのと)
壬(みずのえ)癸(みずのと)
「え」は兄で陽、「と」は弟で陰、ここでも「えと」になる。
壬には「誕生や生まれる」などの意味を持ち、
寅には「動きや伸びる」などの意味を持つ。
それぞれに意味があり、壬寅は「物事が生まれ伸びる」という意味がある。
2022年の前は、1962年、次は2082年にしかない貴重な干支。
60年に1度訪れる壬寅には可能性が秘められているようだ。
実は干支はその年を表すだけでなく方角でも表していた。
その名残として現在も言葉に残っている。
「面舵(おもかじ)」「取舵(とりかじ)」という言葉だ。
映画などで船長が号令をかけているシーンを見たことがあると思う。
この言葉にも干支が深く関わっている。
日本では和磁石という周囲に十二支が配置された方位磁石を使っていた。
その名残で、面舵とは「卯の舵」、取舵とは「酉舵」を表している。
卯に舵を切れ、酉に舵を切れ、ということだ。
船の舵といえば大きなハンドルのようなイメージがあると思うが、
実は船尾にある船の方向を決める作動部のこと。
川下りなどの木製の船を思い浮かべてほしい。
船頭が船尾に座り、棒を右に左にと操作しているのを見たことがあると思う。
あの動きこそが「卯の舵」「酉舵」。
船頭が握る棒の先には船尾水面下に連動する魚の尾びれのような作動部がある。
その尾びれは船頭が棒を左に動かせば(卯の舵)となり尾びれは右に動き船は右に曲がる。
当然、棒を右に動かせば(酉舵)となりの尾びれは左に動き船は左に曲がる。
それぞれ船頭の動きと逆に動くことから混乱するが、実は昔の和磁石は反時計回りに記されていた。
船首から反時計回りに「子・牛・寅・卯…」と配置すると、右には「酉」左には「卯」となる。
船頭の棒の傾きが指し示す向きがそれぞれ「酉」や「卯」ということでそう呼ばれた。
しかし、現在では船頭の棒は車のハンドルのようなものと変わりニュアンスも変わっている。
もちろん船首から反時計回りではなく通常通りの時計回りの概念となり、
ハンドルを右に回すと右に曲がる卯の舵となり、左に回すと左に曲がる酉舵となっている。
もうおわかりだと思うが、この卯の舵が「面舵」となり、酉舵が「取舵」と変化したのだ。
そして、方位磁石同様に時計においても干支は大きく絡んでいる。
明治の文明開化で日本では定時法という現在の時刻表示が適用され西洋化された。
それまでは、大名時計でおなじみの日の出日の入りを基本とした不定時法。
子の刻、丑の刻などという言い方が普通であった。
もちろん「子・牛・寅・卯…」といったように時刻が配置されていたのだ。
そして現在の12時間表示ではなく、24時間表示とされていた。
しかし十二支であることから一刻の時間は現在の1時間ではなかった。
この一刻も夏至冬至で太陽の高さに違いがあることで一刻の長さが違うなど複雑であった。
その当時干支を文字盤に配置されていたことから文字盤のことを干支と呼んでいた。
白文字盤であれば白干支、黒文字盤であれば黒干支ということになる。
今では耳にすることのない言葉ではあるが、
アンティーク時計の愛好家や年配の時計師の間では今でも馴染みのある言葉として残っている。
人の人生は、時の流れとともに歩んで行く。
しかし、ときに時間に縛られ、追い立てられてしまう。
時間を気にするあまり、時計を見なくすることだってある。
時間もスマートフォンで正確に表示され腕時計も必須ではなくなりつつある。
不定時法の時代は、
明るくなった日の出とともに起床し、暗くなった日の入りとともに1日を終える。
時間に追われることもなく、支配されることもなかったであろう。
むしろ、昔の日本人は時間との付き合い方が上手だったようにさえ思える。
我々は便利さの追求で文明の発展を得たが、その反面、心の豊かさを失ってきた。
いくら文明が発展しても人が人である以上、人の心に変わりはない。
昔は「時(とき・じ)」ではなく「刻(とき・こく)」と呼んでいたことに思いを馳せてしまう。
刻は読んで字の如く刻む(きざむ)と書く。
時は過去から現在そして未来へと続く経過でしかない。
昔の心豊かな日本人は、
忙しい現代人とは違い時間と上手に付き合いながら日々を大切に歩み刻んだのであろう。
混沌とした今の時代を生きる術は、昔の日本人が持っていた心の豊かさにあるように感じる。
昔に思いを巡らてみるとそう確信できる。
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