近頃、カセットテープが若者に人気だという。
そんな報道がテレビから聞こえてきた。
昔、レコード盤からカセットテープへ録音していたことを思い出す。
それぞれ好きな曲をセレクトしオリジナルのカセットテープを作っていた。
1980年代のことだ。
マクセルやTDKなどその時の人気アーティストが出演するCMも当時は頻繁に流れていた。
今のようにネットで情報を得ることができない時代。
CDショップへ足しげく通い情報収集と物色をしていた。
そして、カセットテープだけでなくVHFも人気だというキャスターの声が続いて聞こえてきた。
VHFとは昔のビデオテープのことだ。
ビデオテープにはVHF(ビクター)とベータマックス(ソニー)という2つのサイズがあった。
VHFとベータは、規格統一を目指す生き残りをかけた争いとなる。ビデオ戦争と言われた。
結果、VHFが勝利することとなる。世の中はVHFになった。
ベータを好んで使っていた我が家には、ベータのビデオデッキとVHFのビデオデッキの2台並ぶことになった。
報道を目にしながらそんなことを思い出していた。
ふと感じた。
今の時代、音楽や動画は全てデジタルデータでしかない。
サブスクもあるが課金購入したとしてもあくまでもデジタルデータ。
物を手にするという購入したという物理的所有がない。
クリックまたはタップ1つで自分のものとなる。
便利になったものだ。
昔はCDショップへ足を運び、CDを手に取り、ジャケットやアーティストなどを見ながら購入することを決めていた。
自宅に帰ると保護フィルムを綺麗にはずす。オマケ入りのお菓子の要領だ。
ジャケットを取り出しじっくり中身を楽しんだ。CDの背にある帯は綺麗に伸ばしジャケットに挿しておいたものだ。
そしてカセットテープへ録音を行うわけだが、これもまた作業がある。
再生時間を考え46分か60分かなどを決める。それは大事な作業であった。
カセットテープにはA面B面の面裏がある。
大切な楽曲がA面の再生途中で途切れないように時間を考えて録音しないといけないわけだ。
今では面倒くさい作業かもしれないがこれらも含め購入した楽しみでもあった。
言わば恒例行事。
だからこそカセットテープ1つとっても聞けなくなるまで大切にしていた。
この感情はデジタルデータにはない。
今の時代においてこの感情がないように感じる。
物理的所有欲。
物への思い入れという部分は、現代ではあまりに便利に手に入れることができるので稀薄になっている。
物理的所有欲は時代によって変わってきている。
昔の物理的所有欲は、購入する直前直後も含めた一連が含まれているように思える。
その一連が物への思い入れにもなる。
この心の動きはやはり世代の影響が大きいと感じる。
時代とともに生活も変わり目まぐるしいスピードで駆け抜けている。
以前にも昔の日本人が心豊かだと述べた際に書いたことがあるが、
今の「時」と昔の「刻」の違いを感じざるを得ない。
昭和と令和の違いにおいてもそれを感じる。
時代に流されていては今自分がどこにいるのかさえ分からなくなる。
今の時代、自分を取り戻せるツールが必要だと思う。
自分にとってのツールは様々だが腕時計はその1つかもしれない。
腕時計を見ることによって今一度立ち止まる時間を与えてくれる。
アンティーク時計などは良いアイテムかもしれない。
ノストラジックな外観。
ゼンマイを1日1回巻く。
時を刻むロービートな音色。
ゆっくりとしていてその全てが心地良い。
視覚、聴覚、触覚の3つの要素は大きい。
デジタル社会においてこの3つの要素の濃度が急速に薄くなってきている。
この3つの要素こそが思い入れの根幹と言える。
当然ながら、ここで書いたことも世代によって感じ方も違ってくるのだろう。
そう感じている私はやはり昭和なのだ。
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